むし歯がひどくなると、耐えがたいような痛みに襲われ、夜もまともに寝られない状態になってしまいます。この痛みはむし歯が神経まで進行しているために起こります。またむし歯でないのにひどい知覚過敏でも同じような症状が起こります。この強烈な痛みは、神経を抜くことで解消されますが、実は歯の神経は取り除かないほうがよいことをご存じでしょうか。

今回は、歯の神経を取り除かないほうがよい理由についてお話をいたします。

歯の神経組織である「歯髄」について

歯はエナメル質、象牙質そして歯髄(しずい)と呼ばれる構造で成り立っています。エナメル質は歯の表面を覆っている固い組織で、内部にある象牙質という柔らかい組織を守っています。さらに象牙質の内部にある組織が歯髄で、神経と多くの血管が通っており、歯に酸素や栄養を届けて丈夫な歯を作り出しています。

歯の神経が持つ役割とは?

わたしたちの体には神経が通っており、神経があることで痛みなどをキャッチします。歯も同様で、歯の中に神経が通っており、歯にトラブルが起きると、違和感や痛みなどとして異常を感知することができます。

歯に通っている神経は、ただ痛みだけを伝えるのではありません。歯の神経は、歯にとって色々な役割を担っています。では歯の神経にはどんな役割があるのでしょうか。

歯に栄養を与える

わたしたちが毎日の食事でしっかりと食べ物を噛むことができるのは、丈夫な歯があるためです。その丈夫な歯を支えているのが、神経が入っている歯髄です。歯髄には神経と血管が通っており、歯に酸素や栄養素を運びます。しっかりと咀嚼できるのは、丈夫な歯を支えている歯髄の役割が非常に大きいと言えます。

歯に痛みなどを伝える

むし歯や歯のすり減りなどで神経に炎症が起きると、しみたり痛みなどとなって異常を感じます。早めの処置を行うことで、最低限の処置で済むことができることもあるのは神経があるおかげです。

歯の色を維持する

健康な歯は白いですが、これは神経や血管が歯に酸素や栄養を送っているためです。神経を取り除くと歯に栄養を送り届けることができなくなるため、歯が黒ずんでしまいます。

歯の神経を抜いたほうがよい症状とは?

歯の健康を維持するために欠かせない神経ですが、やむを得ず神経を取り除かなければいけないケースもあります。では神経を取り除いたほうがよい症状とは、いったいどんな症状なのでしょうか。

むし歯

神経を取り除く原因で最も多いのが、むし歯です。むし歯が歯髄まで進行すると激しい痛みに襲われます。これは虫歯菌によって神経が炎症を起こしている痛みであり、神経を取り除かないと痛みを取り除くことは困難です。もしそのままにした場合、痛みは治まっても神経や血管は死んでしまい、歯はすっかり溶けて根っこだけになってしまうため、歯を残すためにも神経を取り除き、根管治療という根の治療を行う必要があります。

歯の破折による露髄

アクシデントにより口元をぶつけて歯が折れてしまい、神経がむき出しになった状態を露髄と言います。露髄すると細菌感染しやすくなり、歯髄が炎症を起こす「歯髄炎(しずいえん)」という症状が起きる可能性があります。歯髄炎になるとむし歯同様痛みが起きたり歯ぐきが腫れてしまうことがあることから、残念ながら神経を抜いて根管治療を行う必要があります。

知覚過敏

むし歯でもないのに冷たいものや歯ブラシの毛先が触れて鋭い痛み感じる症状を、知覚過敏と言います。知覚過敏は「キーン」とした頭に響くような症状で、飲食や歯磨きの時間が苦痛に感じてしまうことと思います。できる限り神経を取らずにしみ止めの薬を塗布したりレーザー治療などを行って神経を温存しますが、あまりに症状がひどい場合、神経を取るという選択肢が必要になります。

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歯の神経を抜くとどんなリスクが生じる?

歯の健康維持や、しっかり噛んで食事をするためにも出来る限り歯の神経は温存しておくべきです。しかしやむを得ない理由で歯の神経を抜く治療も必要になりますが、歯の神経を抜くと、どんなリスクが生じるかについてもしっかりと理解しておきましょう。

歯がもろくなる

歯に栄養や酸素を届けていた歯髄を抜くと、当然歯に栄養が行き届かなくなり歯がもろくなります。例えるなら、枯れ木です。土の中に根を張って、そこから水分や養分を摂っている木はみずみずしく、葉も美しい緑色をしています。ところが枯れてしまった木はとても脆く、葉も枯れてしまっています。これと同じように、神経を抜いた歯は欠ける、あるいは割れる原因となってしまいます。

歯が変色する

神経を抜いた歯はグレーっぽく変色してしまいます。この変色はウォーキングブリーチという方法で幾分回復させることはできますが、元のような白さには戻りません。神経を取り除いた歯の変色は他の歯と比べるとかなり目立ち、審美面を低下させてしまいます。

むし歯が再発しやすくなる

むし歯によって神経を取り除いた場合、高い確率でむし歯が再発してしまいます。また根の中に再度炎症が起き、歯ぐきが腫れてしまうこともあります。

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神経は出来る限り取り除きたくないもの

お話したように、歯の神経は歯の健康を維持するために欠かすことができません。しかしむし歯ややむを得ない理由によって歯の神経を取り除くと、様々なリスクを抱えてしまいます。神経を取り除くのは簡単ですが、二度と元に戻すことはできません。

アクシデントは仕方がないかもしれませんが、むし歯は普段の生活習慣でリスクを回避することが可能です。またむし歯の予防や再発を防ぐために、定期検診を受けることもとても大切です。

歯の神経がどれほど大切な役割を持っているかを知っておくと、今後の歯の健康維持のために役立つのではないかと思います。

コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、
大阪府の歯科医院にて5年間勤務。
その後、平成18年に「千里中央 にしお歯科(大阪府豊中市)」を開院。