これまで大きなトラブルもなく毎日の食事を楽しんでいたのに、ある日突然歯が抜けてしまった・・・!抜けた歯を見て、この歯を元に戻すことはできないものかと考える方もいらっしゃるのではないかと思います。では抜けた歯は元に戻すことができるのでしょうか。

歯が抜ける主な原因は歯周病

これまでむし歯と言われたこともなく、お口の中に大きなトラブルを感じないまま過ごしてきた方にとって、突然歯が抜けてしまうととても驚かれると思います。そして「なんで抜けてしまったんだろう」ということになりますが、考えられる主な原因は、歯周病です。

歯周病は歯を支える歯周組織に炎症が起きる病気で、そのままにしていると歯が抜け落ちてしまいます。つまり「突然歯が抜けてしまった」というのは、最悪の状態なのです。

歯周病は、むし歯のように痛みを伴うことはあまりありません。むし歯の場合、痛みがだんだん強くなるため、歯に何かトラブルが起きていることを察知しやすいですが、歯周病のやっかいなところは、むし歯のような鋭い痛みをあまり感じることがないことです。

歯周病は、歯が溶けることはありません。そのため抜けた歯がむし歯になっていなければ、真っ黒になって穴があいていないかもしれません。

しかし、抜けた歯の根っこの部分に黒っぽい「何か」がついていることがよくあります。この「何か」とは、歯石です。健康な歯には、根元に歯石が付いていることはありません。これに対し歯周病によって抜けてしまった歯には、歯石がたくさんついてしまっていることがほとんどです。

このように、痛みがなく歯が抜けてしまうのは、ほとんどの場合歯周病が原因と考えられます。

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なぜ歯周病は痛みをあまり感じないの?

お口の中に起きるトラブルの代表といえば、むし歯と歯周病で、どちらも歯を失う原因となります。しかし同じ歯のトラブルでもむし歯と歯周病では全く違います。

歯が溶けて痛みを伴うむし歯

虫歯菌は酸を作り出し、歯を溶かします。むし歯は歯そのものが溶けて、最終的には根っこだけが残ってしまいます。それまでに治療をすれば歯そのものを残すことはできますが、歯がすっかり溶けて根っこだけになった歯は残念ながら抜歯になります。むし歯の場合、痛みがだんだん強くなるため分かりやすいサインとして現れます。

歯は溶けず、痛みをあまり伴わない歯周病

いっぽう歯周病は歯は溶けません。歯周病菌は歯を溶かす酸を出さないからです。その代わり、歯周病菌が出す毒素が歯を支える歯ぐきや歯根膜、そして歯槽骨に炎症を引き起こす歯ぐきの病気です。むし歯のような強い痛みをあまり伴わないため歯周病だと気付きにくいのが特徴です。まず歯ぐきに炎症が起こり、歯ぐきの腫れや出血が起こります。悪化すると炎症が歯を支える歯槽骨まで広がり、だんだん吸収されてきます。そのままにしておくと歯を支えることが困難になり、ぐらぐらになってやがて抜け落ちてしまいます。歯ぐきが腫れる痛みを感じることはありますが、歯そのものが強い痛みを感じることはあまりないため、歯周病と気づきにくく、自覚症状を感じた頃は時既に遅し、ということがほとんとです。

歯周病がむし歯のように痛みを感じない理由がおわかりいただけたでしょうか?だから歯周病は怖いと言われるのです。

歯周病で抜けた歯は元に戻すことができる?

歯周病が進行するのは、主に30代以降と考えられています。年齢を重ねるにつれ、歯周病リスクは上昇しますがこれは致し方ありません。特に高齢に差し掛かった方の場合、これまでむし歯しらずであっても歯周病になっているという概念があまりないのではないかと思います。

そのため歯周病で歯がいきなり抜けても「この歯を元に戻すことができるんじゃないか」と思われるのも仕方ありません。

では歯周病で抜け落ちた歯は元に戻せるのでしょうか。答えは「戻すことはできない」です。例え抜けた歯がとてもきれいであっても、歯周病で抜け落ちた歯は元に戻せません。

それは、歯を支える歯槽骨が歯周病菌によって吸収され、歯を支えることができないからです。歯はしっかりとした歯槽骨があってこそ支えられています。ところが歯周病が進行すると歯槽骨も吸収され、歯を支えることが困難になってきます。支えることができなくなった歯槽骨に戻しても、歯を支えることはできないのです。

特に年配の方の中には「親にもらった大事な歯だから抜けても使いたい」と思われる方もおられるかもしれません。しかしこれは、物理的に不可能なのです。

抜けてしまったあとは、一般的には入れ歯になります。両隣の歯が健康であれば、歯を削ってブリッジにするという選択肢もあります。このように、歯周病で抜けた部分は歯を戻すのではなく、他の方法で機能を回復させるしかないのです。

あなたの歯は大丈夫?歯周病チェックリストについてはこちら

歯を残すためには定期的なクリーニングが必要

歯周病は加齢とともに進行していきます。前述したように、歯周病は痛みをあまり伴わないため歯周病になっていることに気付きにくいことが特徴です。歯がだんだん揺れ動き始めて初めて異常に気付きますが、そのままにしておくと歯が抜けてしまうため、歯周病の進行を抑える必要があります。

歯周病の進行を抑えるには、家庭での丁寧な歯磨きに加え、定期的な歯石除去とクリーニングが必要です。歯周病の元凶は歯垢と歯石です。これは自分ではなかなかきれいに落とすことができないため、歯科医院での専門的な治療が必要です。また歯周病が進行していないかどうかの検診を受けることで、現在の状態を把握できます。

歯が抜けても元通りにすることはできません。抜けた部分を補う治療はできても、ご自身の歯は二度と元に戻すことはできないのです。このようなことにならないためにも、歯科医院での定期検診は欠かさず受けるようにしましょう。