高齢者に多くみられる誤嚥性肺炎は、歯周病と深い関係があると言われています。最悪の場合、死に繋がる誤嚥性肺炎を防ぐためには口腔ケアが欠かせません。今回は、前回お話しましたオーラルフレイルにも関わる、歯周病と誤嚥性肺炎の関連性、そして口腔ケアの必要性についてお話をいたします。

なぜ高齢者に誤嚥性肺炎が多く起こるのか?

肺炎と誤嚥性肺炎は似て非なるものです。肺炎は、細菌や真菌によって気管や気管支、肺胞などに炎症が起こる病気です。いっぽうの誤嚥性肺炎は、誤嚥によって口腔内の細菌が食べ物と一緒に肺に入り込み、炎症が起こる状態です。

この誤嚥性肺炎は主に高齢者に多く見られます。また病気などで寝たきりの方にも起こり、死に至るという最悪の事態を引き起こしてしまうリスクがあります。

通常食べ物は咀嚼後、食道を通って胃に送られ、消化されていきます。誤嚥性肺炎は、食道ではなく誤って気管に入り込んでしまいます。健康な人でも唾液が誤って気管に入ってしまうことがありますが、嚥下反射という反射神経が働き、むせ返る程度で通常は大事に至りません。しかし高齢者の方の誤嚥性肺炎は嚥下力が低下しており、うまく吐き出せない場合が多く見られます。

そしてお口の中には多くの細菌が棲みついており、その中には肺炎を引き起こしてしまう細菌も含まれています。歯磨きがきちんとできていない不衛生な口腔内では、誤嚥によって肺に細菌が入り込んでしまうことで肺炎を引き起こしてしまうのです。

その細菌の代表格が、歯周病菌です。歯周病は加齢とともに増加し、高齢者のほとんどが歯周病に罹患しています。高齢者のほとんどが罹患している歯周病が誤嚥性肺炎を引き起こすのは、肺炎の原因菌が肺や気管支に棲みつくのを助けるからと報告されています。

また歯周病は歯ぐきに炎症が起こりますが、歯ぐきから炎症性物質が放出され、誤嚥の際に肺や気管支に入り込むことで炎症を引き起こしてしまうとも言われています。

このように、歯周病は歯や歯ぐきといった口腔内のトラブルだけにとどまらず、誤嚥性肺炎によって命までも脅かされるとても怖い病気なのです。

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高齢者の誤嚥性肺炎を防ぐためには?高齢者の口腔ケアについて

高齢の方にとって、誤嚥性肺炎は命取りになりかねない怖い病気です。その引き金が歯周病である以上、歯周病対策をしっかりと行わなければいけません。健康な方でも歯磨きが疎かになり、お口の中が不潔になると歯周病が悪化します。加えて高齢となると、歯磨きがうまくいかずに汚れが残ったままになったり、唾液の分泌が少なくなって歯周病菌が爆発的に増えるなど、歯周病が悪化する要素が増えてしまいます。丁寧な歯磨きを心がけたいですが、それ以外にも高齢者の口腔ケアはプラス要素が必要になってきます。

・歯ブラシ以外に歯間ブラシも使う

歯ブラシによる歯磨きはもちろんですが、歯と歯の間に食べ物が詰まることで歯周病を引き起こすプラークが溜まってしまいます。年齢を重ねるにつれて歯ぐきが下がり、歯と歯の間にもすき間が生じてくるため歯間ブラシを使って汚れを落とすことをお勧めします。サイズは幅が狭いものから広めのものまで揃っているので、どのサイズを選べばよいのか、かかりつけの歯医者で相談されると良いでしょう。

・舌ブラシを使って舌の汚れを取る

年齢を重ねるにつれ、唾液分泌量が低下します。そのためお口の中が乾き、細菌が爆発的に増えてしまいます。特に舌には「舌苔(ぜったい)」と呼ばれる白い物質がびっしりと付着してしまいます。この舌苔は細菌の集まりでもあるので、丁寧に取り除く必要があります。その際に便利なのが舌ブラシです。舌ブラシを使って優しく汚れを落とすことで、お口の中の細菌を減らすことが可能となります。なお歯ブラシでゴシゴシと舌を強くこするのは止めておいてください。

・入れ歯は毎日洗浄する

高齢になると、入れ歯を使っておられる方も多いと思います。入れ歯は汚れやすく、雑菌が繁殖しやすいためいつもきれいに管理する必要があります。一日一度は市販の入れ歯洗浄剤を使い、きれいにしておくことが口腔ケアのひとつのポイントになります。

・半年に一度は歯科医院で検診を受ける

お口の中の状態を清潔に保つことが歯周病の予防や悪化に繋がりますが、ご自身のケアだけではどうしても限界があります。ご自身では落としきれない汚れをきれいに落とすためには、歯科医院での検診やクリーニングが欠かせません。これは高齢の方だけなく全ての方に言えることですが、歯周病をはじめとした口腔ケアは、自分で行うセルフケアと歯科医院でのプロフェッショナルケアから成り立ちます。若い方は3か月に1度の検診が望ましいですが、高齢の方もできれば同じ頻度、最低でも半年に一度の検診を受け、お口の中を清潔に保つことが誤嚥性肺炎の原因となる歯周病予防に繋がります。

・嚥下力を低下させない運動をする

地域のフォーラムやかかりつけの病院などで嚥下力を低下させない運動を行うことも、誤嚥性肺炎を防ぐ重要なポイントです。少しずつ継続して行うことが大切ですので、飲み込む力を低下させないように心がけましょう。

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いつまでも健康で過ごすためにも、歯周病ケアは積極的に行いましょう

お話したように、高齢の方における誤嚥性肺炎は歯周病が深く関わっています。歯周病を進行させないよう、ご家庭と歯科医院でしっかりとした口腔ケアがとても大切です。いつまでも健康で過ごすためにも、毎日の口腔ケアを意識してお過ごしください。

 

コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、
大阪府の歯科医院にて5年間勤務。
その後、平成18年に「千里中央 にしお歯科(大阪府豊中市)」を開院。