年齢を重ねるとともに、日常生活や体の機能において少しずつ変化が起きることを感じ取ることが増えてくるのは厭えません。その中でも、お口の機能が少しずつ衰える「オーラルフレイル」は、心身の健康にも大きく関わります。ご自身では気づきにくいオーラルフレイルですが、どのような症状が当てはまるのでしょうか。今回は、オーラルフレイルの兆候を中心にお話いたします。

お口の役割とは?

お口の役割とは?と聞かれたらどのようなことが思い浮かびますか?まずは「食べること」「話すこと」というのが浮かび上がると思いますが、それだけではありません。お口には食べる、話す以外にも呼吸をする、表情を作る、唾液を分泌するといった大切な役割があり、日常生活において深い関わりがあります。普段何気なく行っているお口の動作は、実は日常生活を送るためにとても重要な役割があることを、再度認識しておきましょう。

特に最近は、お口の健康維持のための意識向上の取り組みが活発になってきています。よく目にする「8020運動」がその代表と言えます。80歳になってもご自身の歯を20本残すという取り組みは、お口の健康維持とともに、毎日の健康を維持するためにとても大切な役割を担っています。

しかしながら、加齢における機能の低下は徐々に起こり始めます。毎日の食事や日常生活において、これまでに見られなかった機能の低下が少しずつ起こり始めるのがオーラルフレイルで、一言でいえば「お口の老化現象」です。ではオーラルフレイルはどのような症状が起こるのでしょうか。次にオーラルフレイルの兆候をお話しましょう。

オーラルフレイルの兆候と症状とは?

加齢にともなうお口の機能低下であるオーラルフレイルは、どのような症状を言うのでしょうか。以下に見られる症状は、オーラルフレイルと考えられます。

・食べこぼしやむせることが多くなる

・固いものが噛みづらく、柔らかいものが中心となる

・お口の中が乾燥しやすく、口臭が気になる

・滑舌が悪く、舌が回らない

このような症状はありませんか?当てはまるものがあれば、それはオーラルフレイルの兆候と考えられます。食べこぼしやむせることは多少なりはあっても、頻繁に起きるようなら口腔機能の低下が疑われます。漬物やいかなど、固いものを噛むことができなくなってきた、また高齢になるにつれ唾液の分泌が少なくなり、お口の中が乾燥しやすくなってきたなども、口腔機能の低下の特徴です。

オーラルフレイルの症状が進むと食事や会話だけでなく、体の健康へも影響が出てしまうことがあります。またオーラルフレイルが重症になると、体だけでなく心の健康にも関わってくる恐れがあります。人前で会話をする機会が減り、社会から孤立してしまうかもしれません。このように、オーラルフレイルはお口の健康、体の健康そして心の健康に関わります。このような症状がある場合、早めにかかりつけの先生に相談しましょう。

むし歯、歯周病に要注意

オーラルフレイル自体は病気というわけではありません。そのため、オーラルフレイルという病名がつくこともありません。しかし、むし歯や歯周病といった歯や歯ぐきの病気がオーラルフレイルを招くきっかけになることは十分考えられます。

むし歯や歯周病は歯を失う大きな原因です。特に歯周病は加齢とともに罹患する可能性が非常に高く、歯周病の進行によって一気に歯を失ってしまうことも少なくありません。もし数本の歯を一気に失ってしまうと、噛む機能に大きく影響してしまいます。入れ歯などの欠損補綴による治療で回復を試みますが、ご自身の歯と比べるとやはり噛む機能は弱く、食事がしにくくなってしまうでしょう。

そうなると、噛む機能そのものが衰え、あっという間に様々な面で悪影響を受けてしまいます。歯周病は自覚症状があまりないため、症状の悪化に気づきにくい病気です。自覚症状を感じ始めたころには、症状はかなり進んでおり、歯を保存すること自体が難しくなってしまいます。

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オーラルフレイルの予防として、まずは歯を失わないために定期検診の受診がとても大切です。

定期検診では、むし歯や歯周病になっていないかなどのチェックに加え、歯石除去やクリーニングも行います。お口の中が不潔な状態だと、細菌が増殖しむし歯や歯周病リスクが高くなります。歯石除去やクリーニングを受け、お口の中の細菌を減らすことで歯や歯ぐきの健康を維持できます。

また入れ歯を使っている方については、歯を失ってしまっていることから既に口腔機能が低下の兆候が見られます。もちろん噛むために入れ歯は必要ですが、入れ歯をきれいに使っておられますか?入れ歯はお口の中に入れておく時間が長いので、どうしても不潔になりやすく、細菌感染のリスクが高まります。毎食後、入れ歯を外して流水で汚れを落として清潔に使いましょう。しっかり噛めるかどうかも重要です。合わない入れ歯では食事にも不自由を感じますので、定期的に入れ歯の調整を受けましょう。

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症状に当てはまる場合、早めに歯医者さんで相談を

オーラルフレイルの兆候についてお話いたしました。年齢を重ねるのはだれしも平等なことであり、少しずつ口腔機能も低下していくことは仕方ありません。いつまでも健康で過ごすためにも、オーラルフレイルの症状に当てはまったら早めに歯医者さんに相談し、口腔ケア等を受けるようにしましょう。

コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、
大阪府の歯科医院にて5年間勤務。
その後、平成18年に「千里中央 にしお歯科(大阪府豊中市)」を開院。