むし歯と並んで歯を失う原因となる歯周病は、ご自身では気づきにくいというのが一つの特徴です。その結果、歯がぐらぐらになってしっかり噛むことができず、歯を失ってしまう恐れがあります。早期発見、早期治療がとても重要な歯周病ですが、なぜ気づきにくいのでしょうか。

歯周病と歯肉炎は違うの?

歯周病は、以前は歯槽膿漏と呼ばれていて、どちらかと言えば、年配の方に起こる症状だと思われていました。しかし歯周病の正式名称は「歯周炎」であり、決して年配の方だけに起こるわけではないことが認識されてきています。

若い方に比較的起こりがちなのは、「歯肉炎」です。これは歯肉に炎症が起こり、腫れたり出血が起きる症状を言い、比較的低年齢から見られます。

では歯周病と歯肉炎は違うのでしょうか。歯周病とは、歯を支える歯ぐきや歯槽骨に炎症が起こる総称のことです。つまり、「歯肉炎」「歯周炎」はともに「歯周病」という大きな括りになるのです。その症状により、歯肉炎なのか歯周炎なのかに分けられることは、案外ご存じない方も多いのではないでしょうか。ただ一般的には歯周炎は「歯周病」と言われており、歯肉炎と歯周病、というように理解されているのではないかと思います。歯科医師も歯周炎ですね、とは言わず、ほとんどが「歯周病ですね」と説明しています。

あなたは大丈夫?歯周病チェックリストはこちら

歯肉炎、歯周炎それぞれの症状について

では、歯ぐきなどに炎症を引き起こす歯肉炎と歯周炎は、どのような違いがあるのでしょうか。

歯肉炎

比較的軽度な症状で、炎症が歯ぐきのみにとどまっている状態を言います。磨き残しによるプラークにより歯ぐきが腫れ、歯磨きのときに出血する、歯ぐきがブヨブヨと赤くなっている、というのが主症状です。ただ歯周ポケットは比較的浅く、炎症が歯ぐきのみに現れるため、適切なブラッシングにより症状は改善されます。歯肉炎は年齢の幅が広く、低年齢のお子さんにも見られます。また中学~高校生くらいのお子さんはホルモンの影響で歯ぐきが腫れやすく、思春期性歯肉炎と呼ばれる歯肉炎が、また妊娠中には妊娠性歯肉炎と呼ばれる、いずれもホルモンの影響による歯肉炎が起きやすくなります。

歯周炎

歯周炎は、炎症が歯肉だけでなく、歯を支える歯槽骨にも炎症が広がっている状態を言います。歯周炎の進行目安となる、歯周ポケットの数値は通常2~3ミリですが、歯周炎が進行するにつれて、4ミリ以上の数値が出やすくなるのが特徴です。

歯周炎は進行程度によって軽度~中度~重度に分けられます。軽度歯周炎は歯ぐきの腫れや出血のほかに、歯周ポケットが少し深くなりますが、適切な歯周病治療を受けることで、症状は改善されやすくなります。

中度歯周炎になると、炎症がかなり広がり歯槽骨が少しずつ吸収されはじめます。そのため歯ぐきも下がり、歯が長く見えるようになります。歯ぐきが下がるため歯と歯の間にすき間が見え始め、健康な歯肉に比べると、歯ぐきが痩せてきた、と感じることも出てきます。また口臭も気になるようになるのもこの頃です。

重度歯周炎まで進行してしまうと、歯槽骨の吸収が著しくなり、歯を支えることが困難になってきます。そのため歯がぐらぐらする、歯ぐきが腫れて噛めない、歯ぐきに膿が溜まり、いわゆる歯槽膿漏の症状が起きまるため、強い口臭で周りに不快感を与えてしまうなど、これまでにはあまり見られなかった症状が出てきます。最終的に歯を保存することは難しく、一気にたくさんの歯を失う可能性が高くなってしまいます。

歯周病の怖さについてはこちら

歯周病が気付きにくいのはなぜ?

実は、歯周病は進行していてもなかなか気づきにくく、気が付いた時には歯がぐらぐらになっており、歯を抜かざるを得ない状況になってしまうケースが少なくありません。

ではなぜそこまでにならないと歯周病と気が付かないのでしょうか。

それは、「歯周病は痛みをあまり感じないから」です。

むし歯の場合、歯の痛みや歯に穴が開いてしまっている、詰め物や被せものが取れてしまったなど、分かりやすい症状が出ます。このような症状が出た場合、すぐに歯医者を受診することでしょう。

しかし歯肉炎や歯周炎の場合、初期の自覚症状は歯ぐきの腫れです。歯ぐきの腫れは不快症状のひとつですが、むし歯のように鋭い痛みではありません。なんとなく歯ぐきが腫れているし、歯ブラシの毛先が当たると血が出るけどそれほど痛くない、とそのまま放置しがちになります。

中度歯周炎になっても、痛みはそれほど感じないため、気が付くと重度歯周炎にまで進行しており、歯槽骨は歯周病によってすっかり吸収され、歯を支えるだけの骨量が不足した状態になっています。これは非常に深刻な症状で、歯周病になっているにもかかわらず、痛みがないからと放置した結果となります。

歯周病は痛みなく進行するため、別名「サイレント・キラー(静かな殺し屋)」とも呼ばれています。このように、歯周病に気が付かないのは痛みをあまり感じないからなのです。

歯周病は予防がいちばん

むし歯と違い、痛みをあまり感じないまま歯周病が進行してしまうのを防ぐことはできるのでしょうか。それには「予防」をするのがいちばんです。

歯周病の予防は、毎日の歯磨きが基本です。しかし、一度お口の中に入り込んだ歯周病菌は、歯磨きだけではなかなか除去できません。お口の中には歯周病菌のほかに、たくさんの細菌が棲みついています。それがプラークとなり、大切な歯と歯ぐきを攻撃する温床となってしまいます。

プラークを落とすのは、毎日の歯磨きだけでは難しいため、歯科医院で定期的にクリーニングを受けることがとても重要です。むし歯予防とともに、歯科医院で定期的なクリーニングを受け、歯周病からお口の健康を守りましょう。