これまでむし歯になったことがなく、歯科医院に一度も行ったことがないという方は、案外多いと思います。しかし、これまで歯科医院に行ったことがないという方は、これから先も歯の健康を維持することができるのでしょうか。今回は、むし歯になったことがない方こそ陥りやすい盲点、歯周病の怖さについてお話をいたします。

むし歯になる原因とならない人の違いとは?

むし歯は、小さなお子さんから高齢の方まで、幅広く起こる歯のトラブルです。虫歯菌が出す酸により歯が溶け、黒くなったり痛くなるなどの症状が出ます。そのままにしておくと、歯がどんどん溶けて最終的に歯を抜かなければいけないこともあり、歯を失う原因の多くを占めています。

むし歯になるのは、チョコレートやケーキなど甘いものを食べすぎるからと考えられていますが、それだけではありません。むし歯は、いくつかの要因が重なることで起こります。その要因は「虫歯菌」「糖分」「歯の質」「歯磨きをするまでの時間」です。この4つの要因が重なることで、むし歯が作られてしまうのです。

例えば砂糖をたくさん含んだものばかりを食べていても、むし歯にならない方もおられます。それは、虫歯菌がお口の中になく、歯磨きもきちんとできており、加えて歯の質が良いという、虫歯になる条件が揃っていないからです。

また、一生懸命歯磨きをしていてもすぐにむし歯になってしまうの人もいれば、歯磨きが適当であっても、全くむし歯にならない人もいらっしゃいます。

これも、むし歯になる・ならない要因が重なっているか重なっていないかで決まります。歯並びもむし歯の原因のひとつでもあります。

このように、むし歯になりやすい・なりにくいのは、口腔内の状況や生活習慣など個人差があります。

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むし歯になったことがない方の盲点とは?

むし歯にならなければ、当然歯科医院に行くこともないでしょう。しかし、ここに落とし穴が待っています。それは「歯周病」です。

歯周病は、成人の約8割が罹患していると報告されています。これは、軽度な症状から重度な症状までを含んだ数字であり、むし歯になったことがない方も含まれていると考えられます。

歯周病かどうかの判断基準は「歯ぐきに炎症が起きているかどうか」です。歯ぐきの炎症とは、歯ぐきが赤く腫れている、歯磨き時に出血するといった症状です。この状態から歯周病が進行すると、歯ぐきが下がってくる、歯が揺れ動き始める、歯磨きをしっかりしているのに口臭が強くなってきた、というような症状が現れ始めます。ここではじめて、ご自身が歯周病であることが分かるパターンが多く見られます。

ではなぜ、歯周病は気づきにくいのでしょうか。歯周病は、むし歯のように痛みをほとんど感じません。また歯そのものに症状が現れないので、歯が溶けて黒くなる、ということもありません。むし歯は「歯が溶ける」に対し、歯周病は「歯を支える歯ぐきや歯槽骨に炎症が起こる」という違いがあります。つまり歯そのものには大きな変化が見られません。ここに落とし穴があるのです。

むし歯になったことがない方はトラブルのサインである「痛み」を感じることがないまま過ごすため、ご自身が歯周病になっていることに気が付かないのです。

気が付けば、歯がなんとなく揺れているような気がする、グラグラしている、という症状が現れ、そこで初めて歯科医院を受診するのではないでしょうか。

歯が揺れ動き始めて、慌てて歯科医院を受診した頃は、歯周病はかなり進行しており、歯を支える歯槽骨が歯周病菌によって吸収された状態へと進行しています。そして残念なことに、いちど歯周病によって吸収されてしまった歯槽骨は、元に戻すことは不可能なのです。

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歯周病の直接的な原因はプラーク

歯ぐきや歯を支える歯槽骨などに炎症を引き起こす歯周病は、プラークが原因です。このプラークに潜む細菌が毒素を出し、歯ぐきなどに炎症を起こします。プラークが石灰化したものが歯石です。歯石をそのままにしておくと、歯周病が悪化しやすい環境になってしまいます。

むし歯になったことがない方でも、プラークは付着します。長年にわたって蓄積したプラークが原因で、歯周病になってしまうと考えられます。

これ以外にも歯並びの問題や、間接的な原因として喫煙やストレス、ホルモンの影響、薬の影響などが歯周病の原因として挙げられます。

むし歯になったことがない方こそ、定期検診を

歯が痛くならないと歯科医院に行かない方の落とし穴である、歯周病についてお話をいたしました。歯周病は、痛みをほとんど感じないまま症状が進みます。痛みがないため歯科医院に行くことがないというのが、歯周病の悪化を助長させてしまいます。

歯周病により症状が悪化し、歯が揺れ動き、最悪の場合歯が抜けてしまうこともあります。また歯周病が重度になると、歯ぐきに膿が溜まり痛みを感じるようになることもあります。ここまで症状が進んでしまうと、歯を残すことができず、一気に数本の歯を抜歯しなければいけないこともあり得ます。

このような状態にならないためには、痛みがなくても定期的に歯科医院での検診が欠かせません。歯も痛くないし、むし歯になっていないのになぜ歯科医院で検診を受けなけらばいけないの?と思うかもしれませんが、定期的に検診を受けることで歯周病に罹患していないか、症状は悪化していないかなど、口腔内の状態を把握することができます。そして歯周病の原因となるプラークや歯石を除去し、口腔内を清潔な状態へ導くことが、お口の健康維持のポイントとなるのです。

歯が痛くなくても、これまでむし歯になったことがない方も、必ず定期検診を受診するようにしましょう。

コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、
大阪府の歯科医院にて5年間勤務。