「口腔機能低下症」という言葉をご存じでしょうか。口腔機能低下症とは、この字のごとく「お口の機能が低下する」という意味を持ちます。お口の機能というと真っ先に思い浮かぶのは「食べること」ではないかと思いますが、お口には様々な機能があり、食べること以外にも重要な役目を持っています。今回は、口腔機能の低下が起きるとどのような影響があるのかお話いたします。
口腔機能とは?どのような役割があるの?
口腔機能、つまりお口の機能は、ひとつではありません。口腔機能は、全身の健康を支えるために、たくさんの大切な役割を担っています。では、全身の健康維持に欠かせない口腔機能には、どのような役割があるのでしょうか。
1.食べること(咀嚼、嚥下)
食べ物をしっかり噛んで(咀嚼)、飲み込む(嚥下)こと。体の健康を維持するために欠かせない機能です。この咀嚼、嚥下機能が正常に働くことで、食べ物がすり潰され、消化器官へと送られます。
2.話すこと(発声、構音)
発声と構音は定義はほぼ同じです。普段何気なく話しているのは、唇や口蓋、舌などの機能が複合的に働くことで行われています。
3.呼吸すること
話すこと同様、呼吸をすることも、お口の機能が深く関わっています。正しい呼吸は鼻から行いますが、舌の位置が悪い、歯並びの問題などから口で呼吸する方が少なくありません。正しく呼吸をすることは、口の中と外側の筋肉のバランスが大きく関係しています。
4.表情を作ること
笑ったり怒ったり、人は様々な表情をつくります。豊かな表情は口腔機能から作られています。口腔機能が衰えると、表情が乏しくなると言われています。
このように、口腔機能が正しく働くことは、食べること以外にも日常生活を送り、健康寿命を長く保つうえで大変重要な働きを持っていると考えられるのです。
年齢を重ねるにつれ、低下しやすくなる口腔機能
若い頃は何も問題なく行われていた動作が、年齢を重ねるにつれてだんだんと低下していくことはごく自然なことです。動作がゆっくりになってきた、目が悪くなってきた、体力が衰えてきたなど、少しずつ機能が低下していくのを実感することも多いのではないかと思います。
口腔機能も同じで、少しずつ低下してしていきます。健康維持に欠かせない口腔機能が低下すると、体の健康に大きな影響を与えてしまいます。口腔機能の低下には、いくつかの兆候が見られます。
・食べこぼしが増えてきた
・よくむせるようになってきた
・飲み込みにくくなってきた
・固いものが噛めず、柔らかいものしか食べなくなってきた
・口の中がよく乾くようになってきた
・滑舌が悪くなってきた
このような症状が出てきた場合、口腔機能の低下が疑われます。この症状を「口腔機能低下症」または「オーラルフレイル」と言い、お口に関する機能が低下しつつある状態を言います。
口腔機能低下症の主な原因は加齢で、高齢者によく見られる症状です。しかし、高齢者でなくとも歯周病やむし歯で歯を失うことで口腔機能の低下が始まることもあります。また歯並びや悪い噛み合わせが、将来的な口腔機能低下症を招くこともあります。
まず、むし歯や歯周病で歯を失った場合、入れ歯やブリッジ、インプラントなど早期に噛む機能を取り戻す補綴治療が必要となります。ところが、必要な治療を行わずに歯が抜けたまま過ごすと、噛む機能が低下してしまいます。またお口の中が不潔な状態で過ごすと、当然むし歯や歯周病になりやすく歯を失うリスクが高まってしまいます。
上記のような症状が出てくるのは、年齢を重ねると致し方ないでしょう。しかし、できるだけリスクを抑えるよう、普段からの口腔ケアが大切になると言えます。
口腔機能低下症をそのままにしておくとどうなるの?
健康維持に深く関わる口腔機能、その機能が低下する口腔機能低下症をそのままにしておくと、どうなるのでしょうか。
・食べる量が減り、体力がなくなってくる
・柔らかいものしか食べられなくなり、認知症などのリスクが高まる
・飲み込む力が落ちるため、誤って食べ物が肺の中に入り、誤嚥性肺炎を引き起こすことがある
・話すことに無気力になる
・寝たきりになり、要介護になるリスクが高まる
このように、口腔機能低下症をそのままにしておくと、日常生活を送ることが困難になってしまいます。また体の健康だけでなく、精神面にも悪影響を及ぼしてしまいます。
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口腔機能を低下させないためには?
年齢を重ねるごとに低下する口腔機能。お話したように、口腔機能低下症をそのままにしておくことは望ましくありません。口腔機能をできるだけ保つためには、ご自身でのセルフケアに加え、歯科医院での指導が効果的です。
1.毎日の丁寧な歯磨きと、歯科医院での定期検診
毎日の丁寧な歯磨きは、健康なお口への第一歩です。歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシ、洗口剤などを使い、お口の中を清潔に保つようにしましょう。これに加え、歯科医院での定期検診もとても重要です。お口の中にあるプラークや歯石を取り除き、口内を清潔にします、また入れ歯の調整などもきちんと行い、よく噛める状態にしておきましょう。
2.噛む力、飲み込む力を衰えさせない
噛む力や嚥下力が落ちてくると、むせかえったり食べ物をポロポロとこぼすようになります。こうならないためにも、食事はよく噛んでゆっくりと食べるようにしましょう。ガムを噛んでお口周りの筋肉を鍛えることも効果的です。お口周りの筋肉や舌の力を意識して使うようにしましょう。また、よく噛むことで唾液も分泌されやすくなります。
3.たくさんおしゃべりをして、楽しく過ごす
ご家族や友人たちと、楽しくおしゃべりをして楽しく過ごすことは、精神面にとってもとても大切です。おしゃべりをすることでお口周りが鍛えられます。
口腔機能低下症は、歯科医院のサポートで患者さんの口腔機能の質を保つことができます。少しでも口腔機能に不安がある方は、かかりつけの歯科医院で相談してみて下さい。
コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、 大阪府の歯科医院にて5年間勤務。