むし歯と歯周病。この二つを比較すると、圧倒的にむし歯のほうがよく知られているのではないでしょうか。「歯を磨かないとむし歯になるよ」「歯が痛いからむし歯かもしれない」など、お口のトラブルというと、まず思い浮かぶのはむし歯でしょう。しかし、歯周病がとても怖い病気であることは、案外知られていません。今回は、歯周病の怖さについてお話したいと思います。

むし歯>歯周病・・・?

歯が痛い、しみる、噛むと痛いなど、歯に関わるトラブルが起こると、まずむし歯を疑う方がほとんどです。歯医者を受診するきっかけは「歯が痛くてむし歯かもしれないから」という方は非常に多いでしょう。むし歯はお口のトラブルの中で真っ先に思い浮かぶ方が大多数です。歯が痛いから歯周病かもしれない、と思う方はごくわずかではないでしょうか。

歯のトラブルはむし歯だけではありません。むしろ、歯を失う原因は、むし歯よりも歯周病であると言われています。それにもかかわらず、「むし歯>歯周病」というイメージが抱かれているため、のちに後悔する結果を招いてしまいがちなのです。ではなぜ、むし歯>歯周病と思われがちなのでしょうか。

お口の中の不調が歯周病だと思われない理由とは?

歯が痛い気がする、なんとなくお口の中がおかしいなど、お口の中に不調を感じても、歯周病ではなくむし歯が第一に思い浮かぶのでしょうか。考えられる理由を挙げてみました。

1.むし歯は低年齢から発症し、幅広い世代で起こるため

むし歯は、低年齢のお子さんから高齢者まで、幅広く発症します。乳歯と永久歯が混在する、小学生のお子さんなどは、歯周病ではなくむし歯か、歯ぐきが腫れる歯肉炎です。幼いお子さんは歯周病になることはめったにありませんが、思春期や成人を迎える年齢になると、むし歯同様、歯肉炎も増える傾向があります。そして、適切な処置をしないと、将来歯周病に発展しかねません。

年齢を重ねるにつれ、歯周病の罹患率は高まりますが、むし歯はどの年齢でも発症します。昔むし歯治療をした方は、「またむし歯になったかも」と思い込んでしまうことが考えられます。

2.自覚症状をあまり感じないまま症状が悪化するため

歯周病は、痛みを伴うむし歯と異なり、痛みをあまり感じません。歯周病の主な症状は、歯ぐきの腫れと出血です。むし歯の場合、歯の表面のエナメル質が溶けだすと徐々にしみる、痛いなどの症状が出てきます。そのままにしておくと、神経に炎症が起こり、激しい痛みに襲われます。

いっぽう歯周病は、歯そのものに症状が現れません。症状が現れるのは、まず歯ぐきです。歯ぐきがなんとなく腫れている、歯磨きをすると血が出る、といった症状が歯周病の典型的な症状です。しかし歯ぐきの腫れは、ものすごくパンパンに腫れない限り、痛みはあまりありません。そのため「少し様子を見れば治るかも」と、そのまま放置しがちです。

ここが、歯周病の怖いところです。むし歯のような鋭い痛みをあまり感じないまま受診をせずに過ごすことで、歯周病は静かに進行するのです。気が付いた時は、既に歯を残すことが出来ない状態ということも、しばしば見受けられるのです。

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放置すると怖い歯周病。どんな影響が出る?

むし歯と違い、痛みをあまり感じることがないので気づきにくい歯周病。早く気が付いた時点で受診をし、適切な処置を受けることで歯周病の進行を食い止め、現状維持が十分可能です。

しかし、気づかずに放置するとお口の中の健康はもちろん、体の健康にも影響を受けてしまうのが歯周病の怖いところです。では歯周病を放置すると、どのような影響が出るのでしょうか。

・歯が抜けてしまう

歯周病は、歯そのものを攻撃しません。攻撃をするのは、歯ぐきや歯を支える歯槽骨などの歯周組織です。歯周病菌に攻撃されてしまうと、歯ぐきに炎症が起こり、歯ぐきの腫れや出血、歯を支える歯槽骨が吸収されていきます。歯槽骨が吸収されると歯を支えることができなくなり、歯がグラグラになる、歯が抜けてしまうといった影響を受けてしまいます。

・複数の歯を失い、噛むことが困難になる

歯周病は1本だけでなく、複数の歯を一気に失う可能性がある病気です。保存が不可能と判断された歯は、残念ながら抜歯となってしまいます。複数の歯を失った場合、部位によっては噛むことが困難になり、食事がし辛くなってしまいます。

・全身の健康に関わる

歯周病の怖いところは、歯を失うことだけではありません。歯周病によって、全身の健康が悪影響を受けることがあるのです。歯周病の悪化により、糖尿病、心筋梗塞、心内膜炎、脳梗塞、妊婦における早産および低体重児出産、そして誤嚥性肺炎などを引き起こすと言われています。

特に糖尿病は歯周病と深い関連があると言われています。歯周病が悪化すると、血中のサイトカインという炎症性物質が発生し、インシュリンの働きを低下させることで、糖尿病を悪化させると言われています。また高齢者や寝たきりの方は、誤嚥性肺炎を引き起こしやすく、命に係わる恐れがあります。

このように、歯周病は全身疾患と深い関わりのある、怖い病気なのです。

歯周病チェックリストはこちら

歯周病の怖さをきちんと知っておきましょう

お話したように、歯周病はお口の中だけでなく、全身の健康にも関わる怖い病気です。お口の中のトラブルはむし歯だけではありません。歯周病の怖さやどのような影響があるのかをしっかりと知っておき、歯周病を進行させないよう、定期的に歯科医院でクリーニングを受けるよう心がけましょう。

コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、
大阪府の歯科医院にて5年間勤務。