歯周病は、高齢者だけに起きるお口の病気と思われがちですが、決してそうではありません。歯周病は、若い方でも発症リスクは持ち併せており、特に妊娠中の女性の方に起こるリスクは決して低くありません。妊娠中に歯周病になると。母体とお腹の中の赤ちゃんにも悪影響を受けてしまうことがあります。今回は、妊娠中の歯周病のリスクについてお話いたします。

妊娠中は歯周病リスクが高くなる

歯周病は、歯ぐきが腫れて出血する病気で、進行すると歯を支える歯槽骨が吸収され、歯がグラグラになってしまう病気です。昔は歯槽膿漏と呼ばれており、主に高齢者が罹患する病気と考えられていました。

しかし、歯槽膿漏が歯周病としてその怖さが認知されるにつれ、高齢者だけの病気ではないことがわかってきました。その中で、特に妊娠中における歯周病は、母体と胎児に良くない影響を与えてしまうという報告もあり、妊娠中は歯周病リスクが高くなると言われています。

その原因として、つわりによる歯磨き不足のほか、妊娠中のホルモンの変化も考えられます。

つわりは、お口の中に歯ブラシが入ると気持ち悪くなりがちな方も多いでしょう。歯磨きがきちんと行えないことでプラークコントロールが難しくなり、口腔内環境が悪化しがちです。その結果、歯ぐきが腫れて歯肉炎が悪化して歯周病に進行してしまうと言われています。

いっぽうホルモンによる原因はどういったことでしょうか。妊娠すると、エストロゲン、プロゲステロンという女性ホルモンが増加します。この2つのホルモンが歯周病菌の栄養源となるため歯周病菌の増加を促し、歯周病を悪化させてしまいます。

歯ぐきの腫れや出血は歯周病だけでなく、歯肉炎の初期症状でもあります。歯肉炎は比較的起こりやすい症状のため、妊娠を機にさらに症状が悪化して、歯周病へと進行してしまうことも珍しくありません。

このように、妊娠中は歯周病になりやすい条件が整っているため、歯周病リスクが高くなると言えるでしょう。

こんな症状はありませんか?歯周病チェックリストはこちら

妊娠中の歯周病は、早産のリスクが最も怖い

日本臨床歯周病学会の報告によりますと、歯周病になっている妊婦は、歯周病になっていない妊婦と比べて7倍も早産や低体重児出産のリスクが高まります。

早産とは、妊娠37週未満での出産を言い、低体重児出産は、早産で2,500グラム以下の新生児を出産した状態を言います。

同じ2,500グラムでも、正期産の2,500グラムと早産の2,500グラムでは、赤ちゃんの肺の機能に大きな差があります。早産で低体重児を出産した場合、体の機能が未熟なため保育器に入ることがほとんどです。早産の原因の一つとして、妊娠中の歯周病が関わることで赤ちゃんに大きな負担を与えてしまいます。

歯周病で早産のリスクが上がるメカニズムは、「炎症性サイトカイン」という物質が深く関わります。歯周病になると、炎症性サイトカインが過剰に分泌され、子宮収縮を促してしまいます。37週以降であれば赤ちゃんは十分に成長していますが、37週未満での出産は早産、つまり低体重児出産に繋がってしまうのです。

妊娠中に歯周病へ進行させないことが大切

歯肉炎は、歯ぐきの腫れと出血が起こる炎症で、歯ぐきだけの症状です。歯肉炎は妊娠中の方だけでなく、小さなお子さんや思春期のお子さんなど幅広い年代で起こります。

しかし歯肉炎が歯周病へ進行すると、炎症が歯ぐきだけにとどまらず、歯を支える歯槽骨にも影響が及んできます。歯周病かどうかは、歯周ポケットを測定したり、レントゲン撮影で歯槽骨の状態を確認することができますが、妊娠中は胎児への影響を考えてレントゲン撮影は行いません。したがって、妊娠中に歯周病へ進行してしまっているかどうかを確認するのは歯科医院での診察や、自治体による妊婦検診を受診することになるのです。

妊娠中にかかわらず、お口のトラブルといえば気になるのがむし歯でしょう。しかし、怖いのは歯周病です。つわりもだいぶ治まり、体調が安定してくる妊娠中期くらいに歯科医院を受診し、歯や歯ぐきに問題がないかどうか診てもらいましょう。歯石除去やクリーニングでお口の中の雑菌を取り除くことで、歯周病リスクを下げることができます。

自治体による妊婦検診も、是非受診しましょう。自治体によって内容は異なりますが、受診することでお口の中の状態を確認することができますので、歯周病になっていないかどうかの目安にもなります。

なお妊娠後期になるとお腹が大きくなり、圧迫されてチェアに座っているのが苦しくなってしまうことがあります。できればお腹が大きくなる前の妊娠中期が理想的です。

また歯周病へ進行させないためには、ご家庭でのセルフケアもとても重要です。まず毎日の丁寧な歯磨きを心がけましょう。出産後まではホルモンの影響もあり、歯ぐきが腫れやすくなって出血もみられますが、気にせず丁寧に歯磨きを行って下さい。できれば妊娠初期から丁寧な歯磨きが望ましいですが、つわりで歯みがきが辛いときは、無理をせず、うがいや口洗剤などを使うなど、できる範囲で口腔ケアを行ってください。

歯周病予防は妊娠中だけでなく、その後の日常生活や将来の歯の健康にも大きく関わります。また生まれてくるお子さんの口腔ケアにも関心が向くと思います。歯周病に気を付けながら妊娠生活を送ってくださいね。

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コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、
大阪府の歯科医院にて5年間勤務。