入れ歯をお使いの人は非常に多いと思いますが、必ずしも「入れ歯があるから食事も安心、人前でも恥ずかしくない」というわけではありません。入れ歯は少しずつ合わなくなってきますが、合わない入れ歯をそのまま使うのはあまり良くありません。今回は、合わない入れ歯のデメリットなどについてお話をいたします。
歯を失う原因とは?
成人の場合、正常な歯の数は親知らずを除くと28本です。矯正治療や過剰歯などで歯を抜かなければいけないこともありますが、成人の残存歯指数の基本は、28本です。
しかし、何らかの原因で歯を残すことができないことがあります。歯はできる限り残したほうが当然良いのですが、残しておいてもデメリットしかなく、抜歯をして次の段階に進んだ方が良いと判断されることもあります。
出来る限り自分の歯は残したほうが良いのですが、残念ながら歯を失う主な原因は、次の3つです。
1.むし歯
むし歯は、年齢を問わず起こる歯のトラブルです。軽度な場合、経過観察や歯を削ってレジンで詰める、根管治療などが一般的ですが、進行して根っこだけになったむし歯は残念ながら抜歯となります。
2.歯周病
今ではむし歯よりも歯を失う原因として知られている歯周病は、成人以降に起こります。歯周病は痛みなどをあまり感じないまま症状が進むため、歯を支える歯槽骨が吸収されると歯がグラグラする、自然に抜け落ちてしまったなどと言ったことが起こります。また歯槽骨の吸収が著しい場合、1本だけでなく数本の歯を一気に抜歯しなければいけないこともあります。
3.事故などのアクシデント
転倒や事故などで口元を強打すると、歯が折れてしまうことがあります。できる限り歯を残す方向で治療を試みますが、状況次第で歯を抜いて欠損補綴治療に進む方が望ましいと判断されることもあります。
歯を失った場合の機能回復手段
むし歯や歯周病、事故などのアクシデントで歯を失ってしまった場合、早急に噛む機能を回復させる治療が必要となります。歯を失ったままの状態で長時間放置することはその後の歯の健康にとっても悪影響を及ぼすリスクが高いため、できるだけ早く次の治療を受ける必要があります。失った歯の機能回復のための治療としては、以下の3つが挙げられます。
1.入れ歯
2.ブリッジ
3.インプラント
この3つのいずれかの方法で噛む機能を回復させる必要があります。年齢やお口の中の状況にもよりますが、保険診療の場合は入れ歯かブリッジが選択肢となります。ただブリッジの場合、支える歯が健康であることが第一条件となりますので、ブリッジでは治療ができないとなった場合、入れ歯が選択肢となることが多いです。
特に高齢の方の場合、部分入れ歯や総入れ歯の治療を進めることがほとんどです。入れ歯のメリットとして、年齢を問わず治療をすることができる、持病があっても治療ができる、保険診療で費用を抑えて作製可能などが挙げられます。また歯周病で歯槽骨が薄くなってしまっていても治療ができるところもメリットのひとつです。
これに対し入れ歯のデメリットは、
・噛む力が弱い
・取り外し式で手入れが面倒
・歯ぐきが痩せてくるので合わなくなってくる
主なデメリットはこの3つですが、少ないデメリットが将来のお口の健康、体の健康に重大な影響を与えてしまうことがあるのです。
合わない入れ歯をそのままにしておくとなぜいけないの?
入れ歯のデメリットの中でも、合わない入れ歯をそのままにすることは良くありません。入れ歯は人工歯なので、入れ歯自体はもちろんむし歯になることはありません。
しかし、歯がない部分の歯槽骨は少しずつ吸収されていきます。歯を失った原因が歯周病であればなおさら、歯槽骨の吸収は避けられません。
また年齢を重ねるにつれ、歯ぐきも痩せてきます。
このようなことが重なり、入れ歯は少しずつ合わなくなってきます。作製当初はぴったり合っていて快適に使っていても、少しずつ変化が現れてきます。
「前は噛めていたのに最近噛み辛くなってきた」「なんだか入れ歯が緩い」「すぐ外れるようになってきた」「総入れ歯では噛めない」など、入れ歯を使っていると様々な不便さを感じることと思います。
合わない入れ歯では、まず食事が苦痛になることと思います。そして最終的に入れ歯を外し、歯ぐきで食べ物を噛んで食事をするということになります。これは総義歯の方に多いのですが、入れ歯で食事がしにくいため入れ歯を外して食事をするようになると、もう入れ歯を付けるのが億劫になり、入れ歯を付けなくなるというパターンになるのです。
これでは噛む力が作用しません。噛む力が低下すると脳への刺激が弱くなり、認知症になるリスクが高まってしまいます。またよく噛まずに嚥下することで誤嚥性肺炎などに繋がる恐れもあります。そして何より、自分の口から食べ物を摂ることが難しくなり、体力の低下に繋がってしまうのです。人間は、口から食べることで健康を維持します。合わない入れ歯は、このような大きなリスクを抱えてしまうのです。
入れ歯はこまめに調整を
合わない入れ歯を使い続けることは体の健康に様々な悪影響を及ぼす可能性があります。このようなことにならないためにも、入れ歯はこまめに歯科医院で調整をしてもらいましょう。少し違和感がある、と感じたらすぐに診察を受けることが、入れ歯を快適に使う大きな秘訣です。少し調整するだけで快適に使えることもありますし、再作製が必要になることもあります。定期検診を受けることも、入れ歯の調子が良いかどうかの判断材料にもなります。入れ歯になったからと放置せず、入れ歯になったからこそ定期的に通院するよう心がけましょう。
コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、 大阪府の歯科医院にて5年間勤務。