歯を失う2大疾患と言われている、むし歯と歯周病。どちらも症状が出てから治すのではなく、未然に防ぐことが重要と考えられています。以前と比べると、今では予防の意識が浸透しつつありますが、むし歯と歯周病の予防の方法は異なるのでしょうか?
むし歯と歯周病、どちらも根本的な原因は同じ
むし歯と歯周病は、それぞれ症状が異なります。しかし、その根本的な原因は同じです。その原因とは「プラーク」です。プラークは、乳白色で粘着性があり、歯の表面に付着してトラブルを引き起こす物質です。
プラークは、細菌の塊です。お口の中には非常に多くの細菌が棲みついていますが、食べかすの中で細菌が繁殖して、プラークとなります。プラークの有機成分の70%は微生物で、そのほとんどが細菌です。食べかすの中に含まれる糖分などを栄養源としてプラークが作りだされる時間は、食後約8時間後と言われています。
お口の中にある細菌は基本的に常在菌で、皆さんのお口の中に存在してます。この細菌がプラークを作るか作らないかは、口内清掃で大きく分かれます。きちんと歯磨きが出来ている方はプラークは少なく、反対に歯磨きが疎かで口内環境が悪い方は、当然プラークが多く付着します。
その結果、プラークが多い方はむし歯や歯周病リスクが高まるのは当然だということがお分かりいただけるでしょう。つまりむし歯も歯周病も、プラークが原因なのです。
むし歯と歯周病の発症メカニズムは少し異なる
むし歯と歯周病、原因はプラークですが、発症メカニズムはお口の中に存在する細菌によって少し異なります。
むし歯(う蝕)
むし歯は、ミュータンス菌をはじめとした虫歯菌により、酸が作られて歯が溶けていく病気です。歯を形成するエナメル質は酸にとても弱く、虫歯菌が作り出す酸によってどんどん歯が溶けていきます。穴が空いていたり黒っぽく変色していたり、痛みを伴うことでむし歯に気づく方がほとんどです。そのまま放置しておくと、神経が炎症を起こして非常に強い痛みを伴います。きちんと治療をしないと最終的に歯の部分がすっかり溶け、根っこだけの状態になってしまいます。
むし歯は小さなお子さんから高齢の方まで幅広い年齢で発症します。お口の中に虫歯菌が存在することで、発症率が高まります。
歯肉炎、歯周炎(歯周病)
歯周病は、歯周病菌が出す毒素によって、歯ぐきや歯を支える歯周組織に炎症が起こる病気です。むし歯は歯ぐきに炎症はほとんど起こりませんが、歯肉炎や歯周炎、いわゆる歯周病と呼ばれる病気は、歯ぐきの炎症などが起こります。思春期や妊娠中の方は歯ぐきのみの炎症である歯肉炎、年齢を重ねるにつれて炎症が広がり歯槽骨まで影響を受ける歯周炎が多く見られます。
歯肉炎や歯周炎は、歯ぐきに炎症がまず起こり、歯ぐきがブヨブヨ腫れている、歯磨きのときに出血があるというのが主な症状です。むし歯と違い、痛みはあまりありません。気づかずに放置していると、炎症が歯ぐきだけでなく歯槽骨に広がるため、歯が動いてグラグラになる、歯ぐきに膿が溜まって噛むと痛いといった症状が出てきます。
ホルモンバランスや噛み合わせ、歯並びなどの影響もありますが、歯周病の大きな原因も、磨き残しなどの口内環境に問題があります。成人以降の方は特に歯周炎が進みやすくなります。
むし歯と歯周病の予防法は違うの?
むし歯、歯周病どちらも歯を失う原因となり、発症する前に予防をすることがベストです。ではむし歯と歯周病の予防法はそれぞれ違うのかと言うと、予防法は同じで「プラークを取り除き、清潔な口内環境にする」ということに結論付けられます。
プラーク自体は柔らかい汚れなので、毎日の丁寧な歯磨きで取り除くことは可能です。ただセルフケアだけでは取り除けない部分もあるため、歯科医院での定期検診やクリーニングはマストです。PMTCと呼ばれる歯科医院での処置は、徹底的にプラークを取り除き、口内環境を整えるとても大切な予防処置です。プラークが石灰化すると歯石になるので、歯石になる前に捕ることが望ましいです。
ただ、むし歯予防と歯周病予防では、使用するペーストなどが異なることがあります。むし歯予防にはフッ素、歯周病予防には歯周病に適した成分が入ったものを使うなど、歯科医院によって若干違いがあるかもしれません。
ただ、むし歯、歯周病それぞれの予防法ということでは、プラークを取り除くことを目的としていますので、定期的に検診やクリーニングが不可欠なのです。
予防の意識を持つことが最も重要
むし歯も歯周病も、予防の意識を持つことがとても重要です。症状が出てから治療をするよりも、未然に防ぐこと、またもし発症してしまっても、早期で治療をすることで歯の寿命や口腔機能を保つことは可能です。
そのためには予防が最も効果的であり、かつ重要です。プラークは食後8時間くらいで作られるので、食後の歯磨きはしっかり行うこと、特に就寝前はフロスや歯間ブラシなどの補助道具を使い、徹底して口内をキレイに保つようにしましょう。
小さなお子様から年齢を重ねた方まで、プラークコントロールをしっかりと行ってむし歯や歯周病からお口の健康を守りましょう。
コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、 大阪府の歯科医院にて5年間勤務。