歯周病菌によって、歯を支える歯周組織に炎症が起こることで歯を失う可能性が高い歯周病。歯周病には定期的なメンテナンスが欠かせないと言われていますが、メンテナンスを継続することで歯周病を治すことはできるのでしょうか。今回は、歯周病とメンテナンスの関係についてお話いたします。

歯周組織が破壊されていく歯周病

歯周病は、歯周病菌が出す毒素によって、歯を支える周りの組織に起こる炎症を言います。歯周組織とは歯ぐき、歯根膜、セメント質そして歯槽骨の4つで構成されており、健康な歯を維持するために欠かせない組織です。歯周病を発症させる細菌は主に3種類と報告されていますが、それに加えお口の中に存在する細菌が歯周病に関与しているものもあり、口内環境によって歯周病が発症しやすくなると考えられます。また歯周病には慢性的なものと、進行性のものがあり、いずれも歯周組織を破壊しながら症状が進んでいきます。

このような細菌が塊になったものが「プラーク」もしくは「バイオフィルム」と呼ばれるものです。歯周病菌が繁殖すると、主に歯と歯ぐきの境い目にプラークが付着します。プラークは乳白色をした柔らかい汚れで、プラーク1ミリグラムに約1億個という凄い数の細菌が潜んでいます。その中に歯周病菌が存在すると、歯周病を発症させてしまうのです。

なおプラークは食べかすと思われがちですが、プラークは食べかすではありません。食べかすの中の糖分などを栄養源にして、お口の中の細菌がプラークを作っていきます。つまりプラークは「細菌の塊」なのです。

歯周病菌の多くは酸素を嫌うという特性があり、歯と歯の間や歯周ポケットに潜んでいます。定期検診やメンテナンスで歯周ポケットの数値を測りますが、その数値が大きいほど歯周ポケットが深いということになります。歯周ポケットが深いほど酸素が届きにくく、歯周病菌が棲みやすく活動しやすい環境になるため、歯周病がの程度がどのくらいなのか、一つの目安となります。

歯周ポケットに棲みついた歯周病菌は毒素を出し、歯ぐきや歯槽骨などの歯周組織を少しずつ破壊していきます。歯周病の初期症状は、歯ぐきの腫れと歯磨き時の出血です。初期症状では炎症が歯ぐきのみでとどまっていますが、症状が進行すると歯周ポケット数値も悪くなっていき、次第に歯が揺れるようになってきます。これは炎症が歯ぐきだけでなく、歯を支える歯槽骨まで広がっているということになります。そして最終的に歯周病菌に侵された歯槽骨では歯を支えられなくなり、自然に抜けたり抜歯になってしまいます。

このように、歯周病は歯周組織を破壊しながら歯を失ってしまうのです。

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歯周病の治療は定期的なメンテナンス

歯周病菌によって歯を失う危険性が極めて高い歯周病の治療は、「治す」というよりも「歯周病の進行を食い止める」ことが目的となります。悪い部分を取り除いても、お口の中にプラークと歯周病菌が存在する限り、結局は「いたちごっこ」となり、継続的なメンテナンスや定期検診を受けても意味ないのでは?と歯周病治療や定期検診に消極的になる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、歯周病の症状が出ており、口腔内の状況が清潔に保たれていなければ、確実に歯周病は進行します。やがて歯を失ってしまうとしても、定期的なメンテナンスでこの先歯を維持できることも十分可能です。

どれだけ歯磨きを丁寧にしていても、お口の中に細菌は必ず存在しております。口腔内が無菌の状態は、赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいるときだけで、皆さん年齢を問わず、細菌は存在しています。その細菌をいかに減らし、口腔内を清潔な状態に保つかが、歯周病による歯の損失になってしまうかどうかの分かれ道になると言っても過言ではありません。

丁寧に歯磨きができており、比較的お口の中がきれいな方でも、3か月もすればプラークは付着してきます。また磨きにくい部分は歯石となっていることもあります。プラークも歯石も、歯科衛生士というプロの手によって取り除くことで、口腔内細菌を減らし、歯周病の発症や進行を抑える最も有効的な方法なのです。

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いつまでも自分の歯で食事ができるかどうかはメンテナンス次第

残念ながら、いちど吸収された歯槽骨、つまり顎の骨は元に戻ることはありません。それでも、早期に歯を失ってしまうか、メンテナンスをしながらできるだけ歯を長持ちさせ、ご自身の歯で食事を楽しむかー。頑張って定期検診やメンテナンスに通うことで、できるだけ歯周病の進行を遅らせ、いつまでもご自身の歯で食事を楽しめることは、歯を失ってから痛感する方がほとんどです。歯周病における継続的なメンテナンスは、ご自身の口腔ケアに対するモチベーション維持にも繋がります。「歯を失わないために、できるだけきちんと定期検診を受けよう、歯磨きを頑張ろう」という心がけ次第で、お口の中の状態も変わってくることがあります。歯ぐきが腫れて出血が多かった人も、メンテナンスとご家庭での口腔ケアで、歯ぐきの腫れが治まり歯周病の進行をできるだけ遅らせることは、とても大きな意味を持つと言えるでしょう。

コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、
大阪府の歯科医院にて5年間勤務。