歯周病は、「高齢者がなるお口の病気」と思われがちではないでしょうか。確かに年齢を重ねるにつれ、歯周病になるリスクは高まります。しかし、若いからといって歯周病にならないとは必ずしも言い切れません。今回は、「若い方の歯周病」に注目してお話をすすめてまいります。

どうして歯周病は「高齢者がなるお口のトラブル」と思われるのでしょうか

年齢を重ねるにつれ、歯の損失は増加する傾向にあり、その大きな原因は歯周病です。歯周病は、お口の中に棲みついた歯周病菌によって歯を支える歯ぐきや歯槽骨などに炎症が起こります。炎症が広がると、歯を支える歯槽骨が吸収され、歯を支えることができなることで歯を失ってしまいます。この状況は、たしかに高齢者によく見られます。口内状況の変化とともに、高齢になるにつれ体の免疫力が下がってくるため、歯周病に罹患しやすくなると考えられます。65~74歳の前期高齢者は約53%、75歳以上の後期高齢者では約62%の歯周病罹患率というデータも報告されています。

かつて歯槽膿漏と呼ばれていた歯周病が高齢者に多いのは、コマーシャルのイメージもあるかもしれません。お孫さんといるおじいちゃんが「お口臭い!」と言われるコマーシャルがだいぶ前に流れてきていたこともあり、その頃から「高齢者=お口が臭い」というイメージが持たれてしまっていることも考えられます。

またドラッグストアなどの歯磨き粉売り場でも、歯周病用の歯磨き粉と入れ歯洗浄剤が隣どおしで売られていることが多いことも、歯周病は高齢者のトラブルというイメージを持たれる一因かもしれません。

このようなことから、歯周病は高齢者の病気というイメージが強く持たれていると言えるでしょう。

若い人は歯周病にならないの?

結論から言うと、若い人でも歯周病になることはあります。歯周病は、歯肉炎と歯周炎の2つに分けられ、若い方でよく見られるのは歯肉炎です。歯肉炎は歯ぐきに炎症が起こり、腫れと出血が見られます。ただ炎症が歯ぐきのみにとどまるため、歯肉炎によって歯が抜けるということはほぼありません。

いっぽうの歯周炎は、炎症が進んだ状態を言います。歯周病の進行具合を判断する歯と歯ぐきの間のすき間の数値「歯周ポケット数値」は正常な範囲は2~3ミリです。この数値が4ミリ以上になると歯周炎と診断されます。若い方でも歯周ポケット数値が4ミリ以上である場合、歯周炎、つまり歯周病になっている可能性があるということになります。その中でも30代以下の若い方に起こりやすい歯周病「侵襲歯周炎」は、要注意です。それではこの「侵襲歯周炎」とはどういうものなのか、次で詳しくお話いたします。

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若年層で発症する「侵襲歯周炎」とは?

30代以下で発症する「侵襲歯周炎」は、一般的な歯周病と同じで歯周病菌によって歯を支える組織が破壊さあれ、歯がグラグラになってしまいます。ではこの侵襲歯周炎は、一般的な歯周病とどのような違いがあるのでしょうか。

侵襲歯周炎の最大の特徴は、若年層で発症すること、そして急速に症状が進んでいくことです。一般的な歯周病と比べると進行スピードが速いことが、大きな特徴です。

また発症範囲が上顎から下顎まで幅広い範囲に発症する「広範型侵襲性歯周炎」、特定の部位に限定されている限局型侵襲性歯周炎」など様々です。

歯周病の原因菌にはいくつかの種類がありますが、中でも侵襲性歯周炎を引き起こす歯周病菌は、他の歯周病菌と比べて強い毒素を出すと言われています。そのためプラークの量がそれほど多くなくても歯周組織に炎症を起こし、急速に症状が悪化していくと報告されています。

侵襲性歯周炎の特徴は以下のとおりです。

1.30歳以下の若い方に発症する

2.急速に症状が進み、顎の骨を吸収していく

3.特定の歯に発症する

4.プラークが少なくても発症する

このように、30歳以下の若い方でも歯周病になる可能性は十分高く、かつ侵襲性歯周炎の場合、急速に症状が進むため注意が必要です。

若い方でも発症リスクのある歯周病から歯を守るためには?

若い方に発症しやすい歯周病「侵襲性歯周炎」についてお話をいたしました。歯周病は、決して高齢者だけの病気ではありません。慢性的な歯周病と比べ、むしろ侵襲性歯周炎のほうが病状の進行が早く、気が付いた時には既に重症化している恐れもあります。若いから歯周病なんて縁がない、と気楽にしていると、後で後悔を招くことになるかもしれません。

歯周病から歯の健康を守るのは、やはり毎日のセルフケアと歯科医院での定期検診です。侵襲性歯周炎の場合、プラークが少なくても症状が進行しやすいためしっかりとセルフケアを続けることが大切です。

そして歯科医院での歯石除去やクリーニングといった歯周病に対する治療や予防も欠かせません。「忙しいから」「若いから歯周病なんて無縁。むし歯のほうが心配」と思わずに、しっかりと定期検診を受けましょう。若い頃から定期検診を受けることが、将来の歯の健康維持にも繋がるのです。

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コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、
大阪府の歯科医院にて5年間勤務。