
年齢を重ねるにつれ、様々な体の機能の低下を引き起こしますが、その中のひとつに「オーラルフレイル」というものがあります。オーラルフレイルとは、口腔機能低下のことであり、オーラルフレイルによって、全身の健康状態を下げてしまいますが、最も懸念されるのが「誤嚥性肺炎」です。今回は、オーラルフレイルによる誤嚥性肺炎の怖さについてお話をいたします。
オーラルフレイルについて
「オーラルフレイル」という言葉を目にしたり耳にしたりする機会が増えてきたと思いますが、そもそもオーラルフレイルとはどういう意味なのか、よく分からないという方もいらっしゃるでしょう。
オーラルフレイルとは、「口腔機能低下」のことで、加齢による体の機能の衰えのひとつです。口腔機能とは、噛む、咀嚼する、飲み込む、話をするなどお口周りに関わる働きのことで、オーラルフレイルは、こういった機能が低下する概念のことを指します。
オーラルフレイルが進行すると、これまで当たり前のように行ってきたお口の機能が衰え、食べることだけでなく話す機能にも低下が見られ始めます。主なオーラルフレイルの症状は、次のとおりです。
・咀嚼機能の低下
噛む力が衰え、固いものが噛みにくくなる、噛めなくなるといった症状が出てきます。柔らかいものしか食べられなくなる、小さく刻んで食べることしかできないということが増えてきます。
・嚥下機能の低下
咀嚼した食べ物を飲み込む力が低下します。昨日の低下が進行すると、固形物だけでなく液体も飲み込み辛くなってきます。
・唾液分泌量の低下
加齢とともに唾液の分泌量が減少し、口腔内が乾燥した状態になります。口腔内の乾燥は、細菌の増殖の原因になります。
・発声、発語機能の低下
口周りや舌の機能が衰え、発声や発語機能が低下します。滑舌が悪い、しゃべりにくいといった症状が出てきます。
このような症状は、お口の中の問題やトラブルとして出てくることもありますが、上記の症状がいくつか重ねて出てきた場合、体の健康や毎日の生活習慣に悪影響を及ぼすリスクが高まると言えるでしょう。
オーラルフレイルと誤嚥性肺炎の関連性について
オーラルフレイルは、口腔機能低下を引き起こしますが、その中でも怖いのが、誤嚥性肺炎です。
誤嚥性肺炎とは、食べ物や飲み物、唾液などが食道ではなく誤って器官に入り、さらに肺の中へ入って炎症を引き起こす症状のことで、主に高齢の方によく見られます。健康な方でも誤って飲み物などが誤って器官に入ることはありますが、ほとんど大事には至りません。
ところがオーラルフレイルの症状が見られる高齢者の方の場合、咀嚼機能や嚥下機能などが低下しているためむせたり上手く飲み込めないため、誤って器官に入ってしまうことがあります。さらに高齢者の多くは歯周病に罹患しているため、歯周病菌などの細菌が一緒に肺の中へ入ることで、肺炎を引き起こしてしまうのです。
このように、オーラルフレイルは誤嚥性肺炎ととてもかかわりが深く、場合によっては命に係わることもあることを理解しておく必要があります。
オーラルフレイルが進行すると、口腔内の衛生状態も悪くなりがちです。唾液の分泌量が減少すると細菌がとても増えてしまうので、お口の中が不潔になるだけでなく歯周病の原因にもなります。歯周病は歯を失う大きな原因になるため、「歯周病で歯がグラグラしたり歯を失う」「噛めなくなって咀嚼機能や嚥下機能が低下する」「誤嚥性肺炎を引き起こす」という、まさに負のループを作り出してしまいます。このように、オーラルフレイルと誤嚥性肺炎は、とても深い関連性があると言えます。
オーラルフレイルによって誤嚥性肺炎を引き起こさないためには?
心身の機能の低下を招くだけでなく、命の危険も伴う誤嚥性肺炎を引き起こさないためには、予防とその対策が不可欠です。口腔機能の低下を招かないためには、まずお口の中を清潔に保つことが最も重要です。日常的なセルフケアはもちろん、定期検診でお口の中の状態をチェックしたり、歯石除去やクリーニングでお口の中の細菌をキレイに取り除くことは、大切な歯を維持するうえで欠かせません。毎日歯磨きをしていても、磨けていない部分があると歯周病やむし歯リスクが高まってしまいます。プロの手でお口の中の状態をきれいにすることは、歯周病などで歯を失うリスクを低減させる効果があります。また入れ歯がきちんと合っているか、噛み合わせは正常か、嚥下機能に問題はないかなど、お口の機能を健全に保つための口腔トレーニングも効果的です。
ご自身のお口の中について、しっかりと関心を持つことがオーラルフレイルおよび誤嚥性肺炎を防ぐ大きなポイントです。普段から定期的に歯科医院で診てもらっている方はもちろん、歯医者へ何年も行っていない方は、むし歯や歯周病の有無とともに、お口の機能の低下がないかしっかりチェックしてもらうことをお勧めします。
オーラルフレイルと誤嚥性肺炎、どちらも高齢者によく見られる症状です。噛みにくい、よくむせる、飲み込みにくいなどの自覚症状がある方はオーラルフレイルの兆候があるかもしれません。適切な口腔ケアやトレーニングなどで機能低下を予防することが不可欠であり、誤嚥性肺炎を防ぐための対策にもなることと思います。気になる症状があれば、できるだけ速やかに歯科医院へご相談ください。
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コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、 大阪府の歯科医院にて5年間勤務。