「最近、食べこぼしが増えた」「硬いものが噛みにくくなった」「話すときに舌が回りにくい」――そんな小さな変化を感じたことはありませんか?これらは、加齢に伴う“お口のささいな衰え”のサインかもしれません。近年注目されている「オーラルフレイル」という言葉をご存じでしょうか。これは“お口の機能の虚弱”を意味し、全身の健康や生活の質に深く関係していることが分かっています。今回は、オーラルフレイルとお口の健康維持との関連性についてお話いたします。

オーラルフレイルとは?

オーラルフレイルとは、噛む・飲み込む・話すといった口の機能が少しずつ衰えていく状態を指します。「フレイル」とは、健康と要介護の中間の段階を意味し、心身の活力が徐々に低下していく状態を指します。つまりオーラルフレイルは、身体のフレイル(虚弱)へとつながる“最初のサイン”とも言えるのです。

次のようなことが増えてきていませんか?

・食事中にむせる

・噛みにくい食品を避ける

・口の乾きが気になる

・言葉がはっきりしなくなった

・外食や会話の機会が減った

こうした変化を放っておくと、噛む筋肉や舌の筋力がさらに衰え、食べる量が減り、栄養不足や体力低下を招く悪循環に陥ってしまいます。

オーラルフレイルが招く全身への影響について

お口の健康は、単に食事や会話のためだけでなく、全身の健康維持にも深く関わっています。
噛む力や飲み込む力が弱まると、栄養バランスが崩れ、筋肉量が減少してフレイル(身体的虚弱)やサルコペニア(筋肉減少症)へとつながります。また、食事の際に誤って食べ物が気管に入ることで「誤嚥性肺炎」を起こすリスクも高まります。

さらに近年の研究では、歯の喪失や咀嚼機能の低下が、認知機能の低下やうつ状態の発症にも関連していることがわかっています。つまり、オーラルフレイルは単なる“お口の老化”ではなく、全身の健康状態を左右する重要なサインなのです。

オーラルフレイルを引き起こしやすい主な原因とは?

オーラルフレイルの背景にはいくつかの原因があり、次のようなものが考えられます。

1.歯の喪失やむし歯、歯周病

歯を失うと噛む力が低下し、柔らかい食べ物ばかりを選ぶようになり、顎や舌の筋肉が衰えていきます。

2.口腔衛生状態の低下

歯みがき不足や義歯の清掃不足により、口腔内環境が悪化し、口臭や感染症、痛みによる食欲低下を招きます。

3.唾液分泌量の減少

加齢や薬の副作用によって唾液が減ると、口の中が乾燥し、飲み込みにくさや味覚の低下が起こります。

4.筋力の低下

舌や頬、唇などの筋肉の動きが鈍くなり、発音や飲み込みが難しくなります。

5.社会的な孤立や会話の減少

 人と話す機会が減ると、口を動かす機会も減り、口周りの筋肉が衰えやすくなります。

歯を失う大きな原因、歯周病について詳しい内容はこちら

オーラルフレイルを防ぐためにできることとは

オーラルフレイルは早期発見により、日常生活の中で対策を取ることで十分に予防・改善が可能です。

・定期的な受診

歯周病やむし歯を早期に発見・治療し、歯の喪失を防ぎましょう。入れ歯やかぶせ物の不具合を放置すると噛む力の低下を招くため、違和感を感じたら早めに受診することが、オーラルフレイルの進行を防ぐことに繋がります。

・お口の体操を習慣にする

「あいうべ体操」など、舌や頬、唇をよく動かす体操は、口腔筋の維持にとても効果的です。食事前に軽く口を動かすだけでも、噛む力や飲み込みのスムーズさが変わってきます。

・しっかり噛んで食べる

やわらかい食事ばかりに偏らず、少し噛みごたえのある食品もできるだけ取り入れましょう。しっかり噛むことは唾液の分泌を促し、消化を助けるだけでなく、脳の活性化にもつながります。

・会話を楽しむ

人と話すことで口を動かす回数が増え、舌や頬の筋肉が自然と鍛えられます。笑顔を作ることもお口周りの筋肉を鍛えることに繋がります。

・バランスのとれた食事と水分補給

タンパク質、ビタミン、ミネラルをバランスよく摂ることで、筋肉と粘膜を健康に保ちましょう。口の乾きが気になるときは、水分をこまめに取ることも大切です。

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歯科医院でできるオーラルフレイル対策

多くの歯科医院では、むし歯や歯周病の治療だけでなく、オーラルフレイルの早期発見と予防に力を入れています。歯科医院でできるオーラルフレイル対策として、どのようなことが行われるのでしょうか。

・噛む・飲み込む・話すなどの口腔機能のチェック

・唾液量や口腔内清掃状態の確認

・口腔リハビリ指導

このように、歯科医院のオーラルフレイル対策では、患者さん一人ひとりに合わせたサポートをしています。特に嚥下機能などが低下しやすい高齢期では、定期的なプロフェッショナルケア(PMTC)などを通じて、歯の健康を維持しながら口腔機能の低下を防ぐことが重要です。

お口の健康が人生の質を変えます

「少し噛みにくい」「話しづらい」「むせかえる」といった小さな不調を「年のせい」と片づけてしまう方も多いですが、オーラルフレイルは放置すると、やがて食事や会話、外出などの意欲まで奪ってしまうことがあります。

逆に、お口の機能を保つことで「美味しく食べられる」「楽しく話せる」「笑顔で過ごせる」そんな毎日が続きます。それは単に“歯を守る”ということではなく、“人生の豊かさを守る”ことでもあるのです。

お口の健康は、全身の健康への第一歩。自分のお口の状態に意識を向け、少しでも気になる変化が見られるときは、できるだけ早く歯科医院を受診しましょう。

コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、
大阪府の歯科医院にて5年間勤務。