オーラルフレイルって何?オーラルフレイルの予防策と改善について

年齢を重ねても「おいしく食べる」「しっかり噛む」「楽しく会話する」という当たり前の毎日を送るには、歯の健康が欠かせません。近年、80歳で20本の歯を残すことを目指す8020運動が広く知られるようになり、口腔の健康が全身の健康に深く関わることも明らかになってきました。特に、噛む力や飲み込む力が少しずつ弱っていく“オーラルフレイル”は、日常の小さな変化から始まり、気づかないうちに生活の質に大きく影響する可能性があります。生涯自分の歯で食べる喜びを守るために、今できることとは何でしょうか。

よく目にする「8020運動」について

私たちの日常生活において、「食べる」という行為は単なる栄養補給ではなく、生きる楽しみそのものです。おいしく噛みしめ、味わい、家族や友人と食卓を囲む――こうした日々の幸福は、健康な口腔環境があってこそ成り立つものです。そんな「食べる力」を生涯にわたって守るために提唱されているのが「8020(ハチマルニイマル)運動」です。「80歳になっても20本以上の歯を保とう」というシンプルな目標は、歯科医療の枠を超えて広く一般にも浸透し、現在では国の健康施策『健康日本21』にも重要指標として盛り込まれています。

そもそもなぜ20本なのでしょうか。永久歯は親知らずを除けば32本ありますが、さまざまな研究から、残存歯が20本を下回ると咀嚼機能が大きく低下することが分かっています。ナッツ類、ステーキなど比較的硬い食物は噛みにくくなり、さらに歯の本数が14本以下になると、米飯やはんぺんのような柔らかい食物でさえ噛みにくくなるという報告もあります。つまり20本という歯の本数は、「何でもおいしく食べられる最低限のライン」を意味しているのです。

しかし、残念なことに現状の日本では80歳の平均残存歯数は約8本とされています。40歳で約25本、50歳で21本、60歳で13本、70歳で8本と、年齢とともに歯の本数が減っていく傾向が明らかになっています。

一方で歯科先進国とされるスウェーデンやアメリカでは、80歳で15~18本の歯が残っているというデータもあります。この差は、歯科検診を受ける習慣や予防への意識の違いが影響していると考えられます。

歯を失う最大の原因は、むし歯と歯周病です。どちらも初期症状に乏しく、気づかないまま進行し、気づいたときには歯の根が大きく溶けていたり、歯を支える歯周組織が破壊されていたりすることも少なくありません。痛みや違和感を感じてから受診するのでは手遅れになるケースが多いため、問題が生じる前に対策する「予防」の重要性が高まっています。定期検診では、歯の汚れや歯石を専門的に除去し、むし歯や歯周病の早期発見につなげることができます。自覚症状がなくても、数か月に一度の検診を欠かさないことが、数十年後の歯の本数に大きく影響します。

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注目すべき「オーラルフレイル」との関連性

さらに近年、口腔の健康と全身の健康との関連についても明らかになってきました。特に注目されているのが「オーラルフレイル」という概念です。オーラルフレイルとは、加齢に伴い口の機能が少しずつ衰える状態のことで、「噛みにくい」「飲み込みにくい」「食欲が低下する」「滑舌が悪くなる」など、些細な変化から始まります。これらの変化はやがて栄養状態の悪化や筋力低下、さらには社会参加の減少につながり、心身のフレイル(虚弱)、そして要介護状態に至るリスクを高めます。

特に残存歯数が20本未満の人では、20本以上の人と比べて「不健康にやせている」割合が有意に高いという報告があります。噛む力が弱くなることで、十分な栄養が摂れなくなり、身体全体の筋肉量が減ってしまうためです。反対に歯がしっかり残っている人は、筋力や活動量も保たれやすく、生活の質も高く維持される傾向があります。つまり、歯を守ることは単なる口の健康にとどまらず、「生涯自分らしく生きる力」を支えることにもつながるのです。

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定期検診の重要性をしっかり理解しましょう

8020を達成するために特別なことをする必要はありません。日々の丁寧なブラッシング、間食や糖分の取り方に気をつけること、そして何より定期的な歯科検診を続けることが大きなポイントです。歯を守る取り組みは、早く始めるほど効果が大きく、年齢を重ねてからでも決して遅すぎることはありません。オーラルフレイルの予防も同様で、口の機能が低下する前に小さな異変を見逃さず、適切なケアにつなげることで進行を抑えることができます。

食べること、話すこと、笑うことは、人生の豊かさを形づくる大切な営みです。80歳で20本以上の歯を残すという目標は、単に数字を追うものではなく、生涯にわたり「自分の口で食べられる喜び」を守り続けるための指標です。未来の自分のために、そして豊かな生活を送るために、今日からできる小さな習慣を積み重ねていきましょう。定期検診へ足を運ぶ一歩が、10年後、20年後の確かな健康につながります。痛みや違和感を覚える前に、是非定期検診の習慣を取り入れてみてください。

コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、
大阪府の歯科医院にて5年間勤務。