「年齢を重ねると歯が抜けるのは仕方がない」と思っていませんか。しかし、歯を失う原因の多くは、加齢そのものではなく、歯周病やむし歯です。歯を失うことで食べ物が噛みにくくなったり、会話がしづらくなったりすると、お口の機能が少しずつ低下する「オーラルフレイル」につながる可能性があります。今回は、歯を失う原因やオーラルフレイルとの関係、今日から始められる予防方法についてお話いたします。
オーラルフレイルとは?
オーラルフレイルとは、「お口の虚弱」を意味する言葉です。以前はしっかり噛めていたのに、「食べこぼしが増えた」「硬いものを避けるようになった」「むせることが増えた」「滑舌が悪くなった」「お口の乾燥が気になる」といった、ちょっとした変化が現れ始めた状態を指します。
これらは年齢だけが原因ではありません。歯を失うことや噛み合わせの変化、舌や口周りの筋力低下など、さまざまな要因が重なって起こります。初期の段階で気づき、適切なケアを行うことで改善が期待できるため、「年のせい」と放置しないことが大切です。
歯を失う主な原因は歯周病とむし歯
歯を失う原因として最も多いのが歯周病、次いでむし歯です。
歯周病
歯周病は、歯ぐきや歯を支える骨が細菌によって少しずつ破壊される病気です。初期には痛みがほとんどないため、自覚症状がないまま進行することが少なくありません。症状が進むと、「歯ぐきから出血する」「歯がぐらつく」「口臭が強くなる」そして最終的には歯が抜けてしまうというケースもあります。自覚症状があまりないため、気づいたら症状が悪化している、ということが多く見られます。
むし歯
むし歯も放置すると歯を失う原因になります。初期であれば比較的小さな治療で済みますが、神経まで達すると大きく歯を削る必要があり、歯の寿命が短くなることがあります。さらに重症化すると、抜歯が必要になるケースもあります。
歯を失うと起こる影響
歯を1本失っただけでも、お口の中ではさまざまな変化が起こります。
1.噛む力が低下する
噛める場所が少なくなり、自然と柔らかい食べ物ばかり選ぶようになります。噛む力が低下すると野菜やお肉、ナッツ類、食物繊維などを摂る機会が減り、栄養バランスが偏ることがあります。
2.残った歯に負担がかかる
失った歯の分まで他の歯が頑張るため、一部の歯だけに負担が集中します。その結果、「歯が割れる」「詰め物・被せ物が壊れる」「歯周病が悪化する」など、さらに歯を失う悪循環につながることがあります。
3.発音しにくくなる
前歯を失うと、「サ行」「タ行」などの発音がしづらくなる場合があります。会話を避けるようになると、人との交流が減り、生活の質(QOL)の低下にもつながります。
4.表情が変わる
歯がなくなることで口元を支える力が弱くなり、頬がこける、口元にしわが増えるなど、顔全体が老けた印象になることもあります。
オーラルフレイルが全身に与える影響
お口の機能が低下すると、全身にもさまざまな影響が現れることがあります。
栄養不足
噛みにくくなることで食事量が減り、タンパク質やビタミン、ミネラルが不足しやすくなります。その結果、筋肉量が減少し、体力低下につながることがあります。
筋力の低下
十分な栄養が摂れなくなると、筋肉が減少し、転倒や骨折のリスクが高まります。
社会参加の減少
「話しづらい」「入れ歯が気になる」「食事が楽しめない」という理由から外出や会食を避けるようになり、人との交流が減ることもあります。こうした変化は心身の健康にも影響すると考えられています。
オーラルフレイルを防ぐためにできること
オーラルフレイルは、ある日突然起きるというわけではありません。お口の中の状態が悪化するにつれ、比例するようにお口の機能も少しずつ低下し、最終的にオーラルフレイルを招いてしまうのです。オーラルフレイルを防ぐためには、どうすればよいのでしょうか。
1. 毎日の歯磨きを丁寧に行う
歯周病もむし歯も、毎日のセルフケアが基本です。歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシも取り入れ、歯と歯の間までしっかり清掃しましょう。
2. 定期的な歯科検診
痛みがなくても、3〜6か月ごとの定期検診がおすすめです。歯石除去やクリーニングを受けることで、セルフケアでは落としきれない汚れを除去できます。また、むし歯や歯周病の早期発見・早期治療にもつながります。
3. 歯を失ったまま放置しない
歯を失ったままにすると、周囲の歯が動いて噛み合わせが乱れます。必要に応じて、入れ歯やブリッジ、インプラントなど、自分に合った治療で噛む機能を回復させることが大切です。
4. よく噛んで食べる
よく噛んで食べることも、とても重要です。よく噛むことで唾液が増え、消化を助けます。またお口の筋肉を使うなど、多くのメリットがあります。
早めのケアが将来の健康につながる
オーラルフレイルは、ある日突然起こるものではありません。「少し噛みにくい」「食べこぼしが増えた」「滑舌が悪くなった」といった小さな変化がサインとなることがあります。その段階で歯科医院を受診し、適切なケアを始めることで、お口の機能を維持しやすくなります。
歯周病やむし歯による歯の喪失は、見た目や食事だけの問題ではありません。歯を失うことで噛む・飲み込む・話すといったお口の機能が低下し、オーラルフレイルへとつながる可能性があります。そして、オーラルフレイルは栄養不足や筋力低下、生活の質の低下など、全身の健康にも影響を及ぼすことがあります。
だからこそ、毎日の丁寧な歯磨きや定期的な歯科検診を続け、歯周病やむし歯を予防することが大切です。また、万が一歯を失ってしまった場合も、そのまま放置せず、適切な治療で噛む機能を回復させることが、お口と全身の健康を守る第一歩になります。
コラム監修者 にしお歯科院長 西尾裕司
大阪大学歯学部を卒業後、医療法人江坂歯科医院に勤務、翌年院長に就任する。その後、 大阪府の歯科医院にて5年間勤務
